膀胱癌が見つかった。(その8、一番不安な手術後の夜を迎える)

恐怖の手術後の夜

多分眠れないだろうから、眠剤と鎮痛剤を予め飲んでおく。

それにしても加圧足マッサージ用のポンプ動作音がやかましい。このマッサージ器は手術前に履いていたキツいハイソックス同様、エコノミークラス症候群防止の為で脹脛部分に巻いたエアバッグを定期的に膨らませる事で足を加圧し、血液が停滞しないようにするものだ。煩い音はポンプ自体の音ではなく、その振動でベットのフレームにポンプが干渉している音だ。

ブワーン!

と部屋中に響き渡る。耳栓をしても聞こえてくる。恐らくは隣の部屋にも伝わっているレベルなので、神経質な私は余計に気になってくる。加えて動作確認音なのか「ピロピロ」と音がしていて余計神経を逆なでする。電子音もさることながらこの振動音なんとかならないかなぁ。止める訳にもいかないし、看護師に相談しても多分無理だろうから、やっぱり自分でやるしかない。

体を起こせないのでその装置の状態を確認する事が出来ない。その機械はベット左側足元辺りにある。ベット両サイドにある柵に手をかけ、足を三角座りよろしく折り曲げ、頭を上げず上半身を足元までぐっとずらす。左腕を何とか伸ばして装置に手をかける。色々まさぐってみると、どうやらその装置はベットのパイプにつり下がっているように付けてあり、やはり付け方が中途半端なのでその振動がベットのフレームに当たって異音を出してるらしい。色々動かしてみたらその振動音が止まり静かになった。

やれやれ。

看護師もこのぐらい気を使ってくれると有難いのだが。個室だからまだ良かったが、多床室だったら大迷惑だっただろう。それにしても、この「ピロピロ」いう電子音は何の為なんだろうか。ずっと鳴っている。

足に巻かれているその空気マッサージも、ちょっと動くと固定用マジックテープがびりびりと剥がれて直ぐに外れてしまう。自分で張り直すがやはりすぐに剥がれる。定時の血圧測定時に看護師に確認してもらったが問題ないとの事。患者として、また、どんなカテゴリでもそうだが、訴えて困っている症状を「問題無い」と一蹴されるのが一番辛い。

ポンプの音を止める時に足を折り曲げてしまった所為で、膀胱に刺さっているカテーテル(と言うには太すぎる管)が変に動いたのか、強烈な尿意というか痛みが今回の手術で削り取った場所より刺激され辛い。それを看護師に伝えるが「ほいっ」と鎮痛剤を出されただけで放置となる。その鎮痛剤を飲むがやはり全然緩和されない。腰もかなり痛くなってきている。

唸る。「うんうん」うなる。辛い。管かバルーンか知らないが、膀胱の裏に当たっている感じなので自分ですこしカテーテルを引っ張ってみる。心なしかマシになった気がしたが、暫くするとまた辛さが戻ってくる。個室なので周りを我慢せずに唸れる所は、やはり個室にして正解だったとつくづく思う。

足に空気が送り込まれる度に、そのエアバッグを留めているマジックテープがバリバリと剥がれ、暫くすると完全に足から外れてしまう。動ける範囲で足に手を伸ばし巻き直す。どうしても膝を立てるので、カテーテールが動きまた膀胱が痛む。この繰り返し。

だれか助けてくれ・・・。

過換気を自ら実験

時間が分からないが多分3時頃。やっぱり膀胱に管が当たるような痛みが酷くなってきて辛い。息が荒くなってくる。すると例の過換気が顔を出す。やばい。息が苦しくなってくる。同じく寒けもしてきた。ヤバイ。息を落ち着かせようとするが苦しいのでので止まらない。もうどうしようもない。たまらずナースコールを押す。・・・が、来てくれない。忙しいのだろうか。このコロナ禍。少なからずこの病院にも医療逼迫の波が押し寄せ人が足りないのか。

もうどうにでもなれ。ここ病院だし、ここで息絶えてもいいやと。このまま体の言う通りにしたらどうなるのかと自分の体で実験してみる。

苦しいから素直に息を激しくしてみる。やはりますます苦しくなる。辛いのでベットのフレームを握り力む。まるで裸で冷凍庫の中に入れられているような悪寒がする。体がガタガタ震えるて止まらない。手足がしびれてくる。喘ぎ声が出る。頭のなかが白くなる。もうだめだ!と思った辺りから少しずつ楽になっていく。まるで絶頂を迎えたかのように・・・。

どうやら過換気は収まった。私の場合、苦しいけど最後にはピークを迎え緩和していくらしい。助かる保証はどこにもないけど、ほっとけば良いと言う事が判った。そうすると今度発作が起きても少しは対処方法が判るので気が楽になった。

アラーム

膀胱の痛みはそのままだが、なんとか息苦しさは和らいた。今度は足マッサージ機の電子音がどんどん音程が高くなっていく。最後には目覚ましアラームのようにけたたましく鳴る。

なんだ?これはどう考えても何か異常が起こってい合図だよな。流石にナースコールで呼ぶしかない。やはり押しても来てくれないが、これは呼ばなきゃと何回もしつこく押すとやっと来てくれた。

・・・が、この音が普通だと。

え?いやいや。どういう事?

看護師は「しょうがないなぁ」といった感じで、説明も無くさっさと部屋を出て行ってしまった。でもよく考えると、確かに最初に出ていた音のように思えてきた。どうやら唸っている時にその電子音が一旦消え、低い音から徐々に高くなり今の音程になったらしい。頭が朦朧としているので分からなかった。でも、この音、異常アラームと思う位煩く、そして鳴っている意味が分からない。説明が欲しい。このコロナ禍で人手が足らず、手が回らないのは判るが、なんせこの病院は説明が少ない。患者は不安になる一方だ。

そんなこんなのと膀胱の痛みとマッサージ機との攻防を行いながら夜が更けていく。うつらうつらしているとやっと外が明るくなってきた。壁にかかっている時計が見えた。5時だ。スズメも鳴いている。

夜明け

まるで魔界で妖怪どもとの決闘を呈し勝利の朝日を迎えたゲームやアニメの主人公の気分だ。しかし、この尿道に入っている管を抜いてもらうにはまだ数時間待つ必要がある。これまた辛いが、部屋が明るいので気分的は少し落ち着く。もう少しだ。

午前6時。看護師が来て状態を起こしても言いというのでベットのリクライニングを使って体を起こす。看護師さんに金庫からスマホを出してもらった。

ふぅ。スマホを弄れるので家内に連絡。そんなこんなで8時になり、ようやっと男性の看護師が来てカテーテルを外してくれる。

やっと~(涙)

看護師が自分の股間に張られたテープやらおオムツに色々作業をしてくれているなぁとおもったら、いきなり「ずぼっつ!」と管を思いきり引っ張って抜きやがった。

「うぬらぁあああああああああ!!!」

声が出て腰が浮く。

痛ってぇ~・・・・。ゆっくり抜いてくれよ。「ゆっくり抜いたら痛いから」らしいが、速く抜いた方が痛いがな。それに、抜くときは抜くって言って(苦笑)。それにそんな急に抜いたら尿道に傷がつくでしょうが。腫れて尿が出なくなったらどうするんだよ。不安が過る。

だが、今までカテーテルが膀胱に当たっている感じは勿論無くなり楽になった。このきつい尿意症状がでてから尿意が無いのは久しぶりで、これが普通の筈なのにこんな楽なのかと改めて思う。

カテーテルと足のマッサージが取れたので、やっとベットから足を床に付け体を起こす。煩かったポンプはこれか。

画像赤丸印の辺りがベッドと干渉して異音を発していたのだ。それにしても、私の場合に限った訳ではない筈。改善しようとはしないのか?

尿閉

カテーテルが抜け、体が自由になったので点滴架台を持ちながらトイレに向かう。尿は指定の容器に出し、出たらナースコールしてくれとの事。了解した。だが、その容器を私のそれにあてがって出そうとするが反応がない。あれ?でない。全くでない。力んでも何しても一滴どころか、先から滲んでも来ない。

おーい。どうした~・・・。

抗生物質等の薬剤や膀胱を洗い流す目的で水を沢山飲んで尿として出さなければならない。点滴はガンガン入れている。これだけ水分を体に入れているのに出ないのは膀胱が一杯になっている筈。

怖い。これは怖い。たかが尿かもしれないが、傷を負っている膀胱にどんどん尿が溜まっているのに出ないのは恐怖を感じる。やはりカテーテルを抜いた時に傷が付いて腫れているのではないかと疑心暗鬼が私を襲う。

朝飯が来たが食べる気にならない。手を付けずに下げてもらい、それから4時間経ったがまだ出ない。看護師に相談して尿量を測る機械で見てもらうと、まだ150cc位しか溜まってないから様子を見ようとの事。うーん。そうなのか?本当か?その機械は本当に計れているのか?不安でたまらない。

日勤の看護師さんは、看護学校新卒と思われる若い看護師ばかりだ。閉尿の事を話すのだが、自分の仕事で手一杯なのか話した内容はどこかへ行っているようで、頼んだ鎮痛剤すら持ってきてくれない。

点滴架台をひきずってトイレに行く。出ない。落胆。トイレからでる。を繰り返す。

尿閉だ。磯野にょうへい・・・。

冗談を言っている場合ではない。昼飯が来た。しかしまだ出てない。勿論食べる気がしない。カテーテルを抜いてから6時間は経っている。「昼飯たべましたかー?」と軽い口調の看護師。出てないから食べる気がしないよと流石に少し強い口調で訴えると、ようやっと上司?の看護師をつれてきてくれて、200cc程溜まっているのでカテーテルを入れて導尿しましょうという事になった。また管を入れるのは辛いが出す事にした。

しかし強く言わないと聞いてくれないのかここは。力が要る病院だな。

導尿のカテーテルは昨晩入れていたものより随分と細いタイプだが、やはり前立腺の辺りで激痛が走り腰が浮く。以前、前立腺炎を起こしていたと伝えると、挿入する時にその辺りで抵抗が有ったから腫れているのかもという回答。なんとかならんのか。

尿の色は綺麗だそうで、でも最後の方はやはり血尿だったらしく、それから看護師が黙ってしまった。導尿をしてから数時間。依然として出ないが、先からピンク色の液体がにじみ出てきた。一滴より少ない滲みだ。

んー。一体どうなっているんだ。

バイオレットピンク

夕飯は導尿で出したから流石に食べた。その頃から少しずつ尿が出始めた。水を溜めたビニール袋に針で開けた穴から出るぐらいの勢いだが、出た時は嬉しかった。1回で出る量は50cc位。100cc出れば良い方。色はバイオレットピンク。

でも100ccから150㏄の残尿あり。また、昨晩と同じような尿意が常時戻ってきた。1時間も我慢ができず、100cc出て残尿ありという事を繰り返す。

トイレの度に看護師を呼んで残尿量を測ってもらい、排泄日誌という紙に記録する必要があるので気を遣う。少しずつ良くなっていくのを願いつつ。

つづく。

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