40年程前の事。その日は突然訪れた。
中学3年の体育の授業で、グランドを何周か走るマラソンと言う名の「自習」。
生徒大多数が嫌いな「マラソン」。ただ、自分は持久力には自信があった。マラソンのイベントではトップ集団に入る実力はあった。でも、しんどいものはしんどいので、いやだなぁと思いつつも走り始める。暫くして、
「ドン!」
という衝撃が胸に走る。
え?
間髪入れず、胸がばくばく言い始めた。
「どこどこどこどこ・・・・」
という位の早い鼓動と胸の振動。
なんだなんだ?
こ、これは、ひょっとして、
恋?
いやいや・・・。
鼓動が、思いきり緊張したり驚いた時の心臓のバクバク感の倍以上で、速さも倍以上。胸を手で押さえると胸の内側から誰かが拳で叩いているかのような大きな振動が伝わり、鼓動の度に体が揺れる。
なんだこの暴走した心臓の鼓動は。食道の辺りでエイリアンの幼虫が食い破って出てくるんじゃないかと思う位の気持ち悪さ。
すると立ち眩みが襲ってきて、立てなくなった。校内トラックコース上にorz状態。
訳も分からずうずくまっていると、他の生徒が私の側を走り抜けていく。
どうした?と声をかけてくれるが、「心臓がばくばくして苦しい」とっても、
という無常の答え。
そうだよな。普通そう思うわ。
でもそうじゃないんだよ。あのね・・・。
と説明するのも辛い。このやり取りが更に精神的にも辛くさせる。
「マラソンが嫌だから仮病つかってんだろ?情けない奴」
という目でみられる。
頼みの綱の先生はさぼって居ない。
誰も助けてくれない
呼吸も苦しくなってきた。頭もぼーっとして手足もしびれてきた・・・。どうすればいいんだ。だれも助けてくれない。それどころか仮病扱い。私は半泣き状態。
呼吸が荒くなってきた。苦しい。でも、意識が飛ぶほどでもない。蛇の生殺しにされている気分。辛い。頭がぼーっとしてくる。なんなんだこれは。一体俺の体はどうなってる?
横を生徒が走り抜けていくこの状況を暫く耐えていると、その心臓の鼓動がより一段大きく「どくん!」と言う鼓動が一つ起こったとおもったら、心臓が止まったかと思う位胸が「シーン」と静まり返り、同時に手足が暖かくなって、苦しさも立ち眩みもなくなった。
え?心臓止まった?・・・訳ねぇ。
胸に手を当てるとちゃんと鼓動している。これが普通の鼓動なんだ。さっきと比べると止まっているように思える位の差がある。
首回りも暖かくなってきた。苦しくもなくなった。時間にして多分5分位か。
訳が分からないまま、普通の状態に戻ったのでゆっくり立ち上がって再びマラソンを続ける。
なんだったんだ一体?あのままだと救急車行だったんだろうか。
誰に相談しても相手にされない
その日それから何事もなく、気分が悪いとかもなく、いつも通りに帰宅。親に相談してみるが、生徒と同じように馬鹿にされて終わる。
勿論その時代、まだWPWと言う症状もメジャーになっていない頃。勿論まわりでも誰も知らないし、かかりつけの医者を受診しても異常無し。体はその症状が出ていない時は全く普通なので、医者への説明も難しい。当然ながら仮病の目でも見られる。これがやっぱり辛い。
それから、中学卒業までは同じような症状が出る事は無かった。
もう気のせいだったのか何だったのか、そんなことすら忘れてたぐらいだった。が、高校に進学し、そして、同じく高校でも体育の授業で例外なくある、その”マラソン”の時間に再発するのだった。
走ってんねんからそらそうやわ、ははは!